2020年の5月上旬にリリースされたVive Syncですが、4月中旬に開発者であるディビッド・サピエング氏のライブ配信(英語のみ)があり「リリースされたのはベータ版で、これから機能が充実していく」とのことなので、どんなアプリになっていくのかをライブ配信をもとに解説します。
Vive Syncはどんな会社が開発しているのか?
Vive SyncはVRゴーグルを開発しているHTC社(本社は台湾)が提供する会議アプリです。
HTC社はVRゴーグルの世界シェア最大規模の企業となっており、oculus社と合わせてVRゴーグルのシェア8~9割を占めているVR業界では超有名企業です。
ライバルのoculus社は、現在は会議などが行えるソーシャルアプリは開発中となっているので、Vive Syncの開発状況によっては、現在リリースされているVR会議アプリは圧倒されてしまう可能性があります。
Vive Syncは今までの会議アプリと何が違うのか?
ハードとソフトの両方を開発しているので実現できるスケールが違う
自社で会議ツールとして活用しながら開発をしているので機能が実用的
VRに対する熱量が高い
ハードとソフトを両方開発している強みとは?
VRゴーグルは技術革新が早く、毎年のように新しいゴーグルが登場しています。
現在VRゴーグルを発売している世界的な企業は、HPやlenovo、Samsung、ファーウェイなどで、まだ発売はされていませんが、Appleやgoogleも開発しているという噂もあります。
それだけ多くの企業が開発しているので、毎年2~3種類は新しいメジャーなVRゴーグルが登場している印象があります。
そのため、VR会議アプリのみを制作する開発会社は、新しく登場するVRゴーグルの機能に振り回される可能性があります(もちろん共同で開発することも考えられますが)。
その点からすると、Vive Syncはハードとソフトの両方を同時に開発できるため、常に実現したい機能をハードとソフトの両面から開発できるという強みになります。
具体的なメリットは?
現在実装されている機能は、VIVE Pro Eyeを使うことでアイトラッキング機能による目の動きの再現と、リップトラッキング機能による口の動きを再現が可能になっており、より現実に近いコミュニケーションが可能です。
HTCではVRとARを組み合わせたMRのハードを開発しているので、将来は現実世界と仮想世界を組み合わせた、スターウォーズの世界のような会議も実現するかもしれません。
自らが最大のユーザーとなることでUIが洗練されている
今のVR会議アプリは万人が活用できるレベルには達していないというのが正直な感想ですが、HTC自らがユーザーとなることで他の会議アプリよりも実用性という点で優れていると思います。
HTC社は台湾とアメリカなど世界中にオフィスがありますが、オフィスごとに国や文化の違いで意見が対立してしまうこともあるそうです。
そのため、「チームをどうやって一つにまとめるか」という大きな課題があったそうです。
そのため、社内でVR会議アプリを導入するメリットが非常に大きく、自らが最大のユーザーとなっているわけです。
具体的にどんな実用性がある?
現在導入されている機能として、ゴーグルを装着したまま操作できないパソコン画面の共有をやめて、ファイルの共有はマイクロソフトのOnedriveとの共有にしたり、会議への招待やログインをQRコードで行えるなど、使いやすさにこだわっています。
その他、初期導入時の設定などアプリで自動でできるものも含め、他のアプリよりも簡単に導入できるのが特徴となっています。
その他には、トラッキングで再現される体全体の動きにこだわっており(他社では顔と手だけしか再現されていない場合も多いですが、全身の動きを正確に再現しています)、自然なコミュニケーションができるようになっています。
もちろん、音声認識による議事録作成機能やスクリーンショットを撮影機能などがあるため、会議後の面倒な作業も必要ありません(音声認識レベルはかなり良くて実用的でした)
今後はMRで会議ができる?
まだリリース版には実装されていませんが、HTC内部で活用されていた具体例として、ゴーグルにXRプレートを装着してARモードとして、現実の世界に製作中の3Dオブジェクトを投影してVRだけではなくARとして打合せができます。
さらに、ARモードはオンラインで離れた場所から参加するという画期的なことも行っています。(下の画像は合成ではなく現実です)
最初はARで投影したオブジェクトをミニチュアで確認しましたが、その後に詳細を確認するためにVRモードで等身大の3Dオブジェクトの中に入り、細かい調整を行ったようです。
このように会議で3Dオブジェクトを確認しなければいけないプロジェクトでは、すべてワンストップで確認できる非常に便利な機能となっています。
VRに対する熱量が高い
開発チームのディビッド・サピエング氏はライブ配信の1/3は質疑応答に答えていましたが、NG無しで答えにくい質問に積極的に答えていたのと、コロナウィルスで世界中が大変な中、世の中の役に立つアプリをリリースしたいという強い思いが伝わりました。
具体的には、リリースしたベータ版は自分たちが使いたい機能を盛り込んだが、世界中の人たちに使ってもらって機能の要望などの意見を受けて改善していきたいとのことでした。
しかも、要望があればぜひメールで送って欲しいとのことで、全てのメールに目を通すと約束していました。
これは1回ではなく、配信中に何度も言っていたので、熱量が感じられました。
さらに、アプリ内の機能で、会議中に何かエラーが発生すればボタンを押すだけで現在の状況をエラーとして送信できる機能もあります。
『HTC社は本気です』
Viveは新しいチームビルディングを目指している
HTC社でオフィス毎に文化や考え方などの違いで意見が合わないなどがあったそうですが、 Vive Syncを活用すると、プロジェクト毎にデザイナーやエンジニアなどのメンバーが集い、毎日コミュニケーションを行うことで、一つの目標が共有できて生産性が上がったそうです。
例えば、一つのプロジェクトに経理や営業、システム、保守などの担当者からなるチームを結成して、朝に全体ミーティングを行い、その後は担当者同士でVRやARでコミュニケーションを取り、夕方のミーティングで最終的な状況を報告するなど、共通のゴールへの達成が意識づけけられたとの事です。
これは、どうしても私たちビジネスマンは、一番近い存在である所属部署の利益や目標を優先にしがちですが、VRによるコミュニケーションで、これが変わりより生産的になったとのことです。
世界標準を見据えたシステム構想
ライブ配信では「HTCはアイディア勝負のベンチャーではなく、すでに世界中にVRを届けているブランドを作り上げており、世界標準のサービスを構築することが使命だ」と言っています。
そのため、セキュリティと安定性を念頭に置いているそうです。
安定性については、すでにVRアプリのプラットフォームを構築しており、世界中にサーバーを運用しているため、非常に安定していると思います。
また、セキュリティーですが、会議の音声や映像を録画したり盗聴できないような仕組みを構築していると明言しています。
これは自社内の会議でも機密事項が含まれるであろう新規開発の会議も行っているため、情報漏えいに気を使っていると思われます。
アマゾンやグーグルのAIスピーカーなどでも問題になった盗聴などの情報漏洩ですが、社内の監視体制も含めてきっちり対策をとっているのでしょう。
また、ファイル共有ではビジネスで最も使われているMicrosoftの共有ドライブOnedriveと連携しているので安心できると思います。
共有できるファイル形式 について
ファイル形式はPDFやパワーポイント、excelやwordなど、ビジネスでよく使われるファイルに対応していますが、objやfbx、unityなど3Dオブジェクトの共有も可能となっています。
また、動画が埋め込まれているPDFが再生できるなど、基本のファイルだけではなく応用的なファイルにも対応しているとのことです。
これは、HTCではアプリを作ることが目的ではなく、実際に自分たちで活用した結果をフィードバックしているので、よく考えられていると思いました。
今後は、keynoteなどのアップル独自ファイルの共有も実装していくそうです。
マイナス点としては、現段階では3Dオブジェクトの共有にかなり制限をかけているので、複雑な3Dオブジェクトを活用した打ち合わせにはあまり使えないです。
今後はOculus社のゴーグルに対応する?
現段階ではHTC viveの機器しかしていないため、普及しているOculus goやquestは使用不可となっていますが、今後対応していくそうです。
正式な日程は決まっていないが、遅くとも2020年中には対応する予定とのことです。
また、VRデバイス以外にパソコンやスマホなど非VRの端末にも対応していく予定で、説明ではかなり早い段階で実装されそうです。
非VR端末での会議参加は、他のアプリで試したことがありますが、zoomなどのウェブ会議のように使用できるので、VR機器がそれほど普及していいない今の段階では非常に便利な機能となっています。
3Dオブジェクト共有は使えないのか?
今の段階ではテクスチャーの容量やオブジェクトの数などで制限をかけているため、複雑なオブジェクトを共有することができません。
それは、3Dオブジェクトの共有は読み込みエラーが発生する可能性があるため制限をかけているそうですが、今後は改善していく予定だそうです。
これはVive Syncだけではなく、blenderなどの一般的な3DCGソフトでも外部ファイルをインポートするとエラーが発生することはよくあります。
これを防ぐために将来的には、取り込めるファイルの制限を広げるのではなく、3Dソフト側と連携することで、3Dソフト上からVive Sync用のデータを直接吐き出せるようにしてエラーを回避していくとのこと。
ちなみに期限は年内を想定しているそうです。
これはかなり画期的な解決策だと思いますが、HTC社のシェアなど実績があるからこそ出来ることだなと思いました。
ターゲットとしている業界は?
ターゲットとしては、企業向け(エンタープライズ)のVR会議としての活用がメインだったそうですが、教育分野でもリモート講習など活用が見込まれるため注力しているそうです。
これはゴーグルによる健康が懸念されている子供向けの教育ではなく、企業研修などの大人向けの教育の需要を想定しているそうです。
今後の開発について
今リリースしているバージョンはあくまでもベータ版なので、必要な機能や要望があれば検討していくそうで、メールを送れば必ず目を通すので送って欲しいとのことで、 その熱いメッセージにHTCの本気と熱意が見えたので、これが完成すればVRの未来を変える重要なアプリになるのではないかと思いました。
最後に下記が HTC社のディビッド・サピエング氏のライブ配信映像となります。